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小説書き連ね用

empties

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empties

ーー私が産まれた時、この世界には何も無かった。
絵も、音楽も、遊びも、道具も。いや、そもそも『世界』というものすら存在していなかった。
私が産まれた瞬間に出現したものは、私のみであった。

【だが、私は全知全能の神などではない】

そこから世界が誕生し、あらゆる物が現れていく様を、私は見ている他なかった。
長い永い間、休む暇もなく見ていた。それ以外に私の出来る事は無かったからだ。
私にも欲は存在していた。次々と現れていく物を、私も産み出したいと思っていた。
足りぬ知識は時間で補えばいい。やがて私は、その存在すら認識していなかった手を動かすまでに至った。

【私は全知全能の神などではない】

時間の終わりは知る由もない。幾分かの流れを経たが、私の産み出すものは全て泡沫に消えた。
絵も、音楽も、遊びも、道具も。物として産み出され、存在を維持出来たものは一つとして無かった。
唯一つ産まれた物は、それらに対する絶望の念のみであった。

【私は全知全能の神などではない】

それからも時間は過ぎた。無から始まった世界は、有で充満していた。
もはやそこに無の入る隙間は存在しなかった。行き場を失った無は、この世界から飛び立った。
世界は、それに対し無関心であった。有に依存する事が、世界の選択だったからだ。
私は、無に興味があった。あっただけで、その動きを憂うだとか、喜するだとかいう考えは無かった。
私は、私を産んだ無の事を見ていたかっただけなのだ。

【私は全知全能の神などではない】

有で充満した世界もやがて、不足を憂い始めた。
無の消えた世界に現れたのは、限りであった。その限りを、世界は認識し始めたのだ。
既に存在しない無に対し、世界は焦りを感じ始めた。このまま限りに到達すれば、先には衰退しか残されない。
どちらの道も見てみたいという欲はあったので、そのまま行く先を見る事にした。

【私は無でも有でもない】

世界の出した結論は、『無を産み出す』事だった。それは、これまで全てを産み出してきた世界には容易であった。
無の出現により、限りに近づいていた世界に余裕が出来た。大幅な進歩を遂げたのだった。
全てを観てきた私にも、先の予測は不可能なほど世界は膨張していた。尤も、予測などしたことは無かったが。

【私は無より前に産まれた】

無すら産み出した世界だったが、気の付かない内に下方に傾き始めていた。
産み出された無が、その中で有を産み出し始めたのだ。それこそ、世界が嘗て辿った時間の様に。
限りの存在しない無は、絶えず有を産み出した。それが世界の限りに到達するのに、大した時間は要さなかった。
崩れる世界は、私には悲しくもあったし、逆に報復に成功した充足感もあった。
そして漸く私は、私の存在が世界とは離れている事を理解したのだった。

【私は何から産まれたか】

見事なまでに崩れ去った世界には、その終わりを眺める様な私が居た。
以前認識した手で瓦礫に触れると、それらは存在を消した。
暫く世界を見物していると、奇妙な動物に出会った。
『それ』はーー何と形容すべきか、良い案が浮かばないがーー私を見ていた、気がした。
実に微妙な表情の『それ』は、本当に私を見ているのか分からない。しかし、『それ』はこの世界の物では無かった。
産み出された物ではない、元からそこに存在していた物。
『それ』は、私と同じであった。

【私は全知全能の神などではない】

【私は全てを産み出すもの、かもしれない】



私が『それ』に触れると、『それ』は私になった。
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