挨拶を終えて、天月は机の上の食事を見る。
これといった特徴のない、ごく標準的なものだ。量も丁度良い。
それに対し艦娘達のものは、メニューこそ同じだが、量は艦種によって様々だった。最初の挨拶時には着けていた艤装は昼食時には外されていた為一目では判りにくいが、覚えている顔からある程度の判別がついた。
「そうそう、お昼ご飯が終わったら今日はフリーなんですけど――」
声を掛けてきたのは、伊401――しおいだ。
「折角だし、敷地内を探検しません? 案内も兼ねて」
初日という事もあってか、昼からの予定は決められていなかった。次に決められているのは夕食前のミーティングだ。
「勿論構いませんよ。よろしくお願いします」
昼食を終え、天月は施設裏口へ向かった。正門とは真逆に位置し、敷地への入口になっている。部屋のと同じくらいの大きさの扉の先には、広い海が広がっていた。向かって左に大きな建物がある。
「天月さん、お待たせしました!」
少し待っていると、しおいがやって来た。
「あれ、他の……潜水艦の子たちは居ないんですね」
てっきり名簿で見た潜水艦みんなで来ると思っていた天月は、軽く驚いた。
「今日は独り占めです! ……ぶっちゃけ、案内役を任されただけなんですけどね、加賀さんに。それより!」
しおいは懐から何かを出し、スイッチを押した。すると、その物体の隙間から光が飛び出し、空中で交わって立体を作り出す。天月はそれを不思議そうに見ていた。
「これ、ホログラム端末なんですよ。登録された図とか立体とかをホログラムで映す装置。まだ試作段階で技術的なとこも含めて未公表らしいんですけど、実験的にこの施設に渡されてるんです。で、今映してるのが施設の地図。私達はここですね」
ホログラムの下の方を指差す。看板のように映し出される地図は、この施設の立体的な大きさを示していた。
「この端末、天月さんに渡しておいてって、加賀さんが。あんまり長くは持ちませんので、こまめな充電をとのことです。今は電源切っておきますね」
黒い物体に戻った端末は、天月に手渡された。わずかに温かいのは、しおいの体温か、端末の熱か。
「……便利なものがあるんですね。ちょっと、興味湧いてきたかもしれません」
「それじゃ、その興味を何倍にもしていきますか! まずはあの、大きい建物から行きましょ」
しおいにエスコートされ、天月はその建物へ向かった。
倉庫の様だと、初めに見た時天月は思った。少ない装飾は、近付いてその存在を認識することが出来る。装飾だけではない。自動ドアになっている入口の奥は、その外見からは想像がつかないほど綺麗で華やかだった。
「いわゆる複合施設で、食事や銭湯、アミューズメントも完備ですよ」
としおいは言う。
「食事や銭湯……って、ご飯とお風呂は決まってるんじゃ……」
天月はスケジュール表を思い出す。3食と風呂は確かに母屋だったはずだ。
「基本的には使われないですけど、週1回の自由行動デーには賑わうんですよ。実は今日もその日なんですけど、天月さんの配属初日なのでご飯とお風呂はいつも通りなんです。そうして早く私達艦娘に慣れてもらおうっていう、みんなの意見です。あっ、今の内緒ですよ?」
人差し指を口に当て、しーっ、のジェスチャーを見せた。秘密にしないといけない本人にバラしてどうするのか。
「ありがとうございます、私の為に。ところで、アミューズメントというのは?」
天月が聞くが、
「秘密です!」
しおいに即答された。
「どうしてですか!?」
「その、なんというか、ネタバレなので」
下手にはぐらかすしおいを追及するのは楽だが、それをする必要も感じられなかったので、それ以上の質問を止めた。
「また今度、教えてくださいね」
それでも一応、釘は刺しておく天月だった。